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高松高等裁判所 昭和49年(行コ)4号 判決

控訴人 有限会社四万十骨材

被控訴人 中村税務署長

訴訟代理人 下元敏晴 藤田正博 森池裕一郎 ほか四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人が、本件係争事業年度の法人税につき、法定の期限内に確定申告をしなかつたこと、控訴人の当該事業年度における所得の計算上の益金及び損失(但し減価償却費を除いたもの)の額、別紙一の〈2〉を除く減価償却の方法、についての原審の説示を相当と判断し、その記載を引用する(原判決理由一、二、及び三の冒頭の説示、九枚目表末行まで)。

二  控訴人は、原判決添付別紙第一〈1〉の砂利採取機は、控訴人会社が買受けた形式を取つているが、実質的には訴外島田の現物出資であると主張し、当審における同会社代表者植村純一郎、同豊永富吉の同旨の各供述があるけれども、そのような場合、現物出資を為す者の氏名、出資の目的たる財産、その価格及び之に対して与える出資口数を定款に記載しなければその効力を有しないことは有限会社法七条二号の明定するところであり、かような定款の記載あることの何らの証拠がないのであるから、控訴人の右主張は採用することができない。

三1  前記の砂利採取機は、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和四一年一月二九日会社設立直後の同年二月一日に控訴人が訴外島田よりこれを譲受けたものと認められる。そして〈証拠省略〉を総合すれば、右砂利採取機は、訴外人がこれを使用していた昭和三八年に台風で倒れたことがあり、その後も一度横転させたので、価額としてはせいぜい一〇〇万円位と評価してよいものと認められる。なお〈証拠省略〉によれば、その実際の稼働期間は約五ケ月にすぎなかつたと認められるので、右砂利採取機の償却限度額は被控訴人の計算するところと同一に帰するので、これについての被控訴人の償却額は相当というべきである。

2  前顕各証拠を総合すると、控訴人は訴外人の資産、負債の一切を含む営業を事実上承継したものと認められるが、訴外人の有した砂利採取権もまた右資産の一部を構成するものと解される。

右権利は河川管理者(建設大臣又は県知事)の許可に基づく権利であり、右管理者の承認を得てこれを譲渡し得るものである(河川法二五条、三四条)が、〈証拠省略〉によれば、右権利はかような公法的制約を受けるものであり且つその期間は二ケ月又は三ケ月という短期のものが通常であり、砂利採取権者は許可の更新を得てその事業を継続するのが常態であると認められる。この意味において、砂利採取業は砂利採取権無くして成立し得ず、本件においては右権利とともに前主の従前からの得意先関係を引継ぐことの利益をも取得したものというべきで、控訴人が譲受けた右権利は、このような法律的、事実的関係を含めた企業収益力の源泉たる無形の財産的価値を有する資産としてこれを評価するのが相当であり、控訴人が訴外人からその事業を引継いでこれを行い得たのは、訴外人の有した右のような砂利採取権をも譲受けたことによるものであつて、これを否定する控訴人の主張は採用できない。

ところでかような砂利採取権については法人税法同法施行令上該当規定が存しないところ、前記の如き性質から見て、同法施行令一三条八号の無形固定資産の一種として取扱うのを相当と解すべく、被控訴人が、そのうちの営業権に類するものとして、減価償却資産の耐用年数等に関する省令一条一項三号を準用してその償却額を算定したのは妥当な処置というべきであつて、その算定額は、原判決添付の別紙二の三記載の理由により、別紙一〈2〉の被控訴人主張の償却額のとおりとなる。

控訴人は、本件においては、倒産寸前の訴外島田の営業を承継したもので、かような超過収益力のない場合の営業権は無価値であると主張するが、前説示のとおり、砂利採取営業を可能ならしめる根源たる権利としての砂利採取権を是認し得る以上、その譲渡の場合に、右権利の財産的価値を否定し去るのは相当でなく、控訴人の右主張は採用することができない。

次に控訴人が譲受けた砂利採取権の価額について検討を進める。

右権利は砂利採取営業の一部を構成し、その営業活動を可能ならしめる根源たる権利と認め得ること前説示のとおりであり、本件においては、控訴人は訴外人の営業と共に右権利を譲受けたものと認めるべきところ、控訴人はこれにつき何らの評価をしていない。

ところで営業の譲受価額は、当該営業の各個の資産の価額以外の無形の資産の価額を含めたものと解すべきであるから、右権利の価額は、営業の譲受価額から、その承継の時点における純資産の価額を差引いたものと認められ、これを本件砂利採取権の価額と見て妨げない。

そうするとその価額は、原判決添付別紙一の〈1〉〈2〉以外の他の資産の価額につき当事者間に格別争いがないのであるし、控訴人主張の同〈1〉の四八〇万円は一〇〇万円と認定すべきこと前説示のとおりであるから、その差額の三八〇万円を砂利採取権の価額と認めるを相当とすべく、前顕各証拠と弁論の全趣旨を総合すれば、その評価は決して不当なものということはできない。

なお控訴人は、その主張二、(2)において、本件砂利採取権が現物出資の目的であることを前提として本件更正処分の違法を主張するけれども、右前提事実を認め得ないこと前示のとおりであるから、これを理由とする本件更正処分の違法の主張もまた排斥を免れない。

3  別紙一の〈3〉ベルトコンベアー、〈4〉砂利採取機、〈5〉同上補強費、机についての各減価償却額については、原判決の判示と同一に帰するのでその記載を引用する(原判決一一枚目表終りから三行目より一二枚目表終りから四行目まで)。

四  以上の次第であつて、被控訴人のなした本件更正処分を違法とする控訴人主張の事由はすべて理由がなく、これを排斥すべきものである。

従つて被控訴人のなした本件事業年度における控訴人の損益計算の額は被控訴人主張のとおり(原判決三枚目裏六行目から四枚目表四行目まで)であり、これを基礎として算出した法人税額八五二、二〇〇円は正当である(法人税法二二条、六六条一項、二項、四項、五項、国税通則法一一八条、一一九条)。

よつてこれと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 合田得太郎 小西高秀 古市清)

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